World Mystery Tour by Mr. M
                 



事件ファイル04


                続・我中国語得意編


       その日、M氏は出張のため某Q航空国内線に乗ってA市に向かっていた。普段は
       ガラガラに空いているはずのビジネス・クラスだが、珍しくその日は満席。M氏の隣
       にはアジア系の男性が座ってきた。基本的にフレンドリーなM氏は、ニッコリ笑って
       「Hello!」とだけ挨拶をすると、あとはいつものようにカバンから本を取り出して、
       つかの間の読書タイムに突入した。

       離陸してから数分が過ぎ去り、ちょうどシートベルト・サインが消えた頃である。突然
       隣に座っていた男がM氏に話しかけてきた、と言っても、「あーぁ・・・・・んーん・・・・・」
       と言うだけで、ぜんぜん言葉になっていない。かといって、別に身体の調子が悪いよ
       うにも見えない。M氏が男の真意を掴み切れずにいると、男は自分のカバンの中から
       ペンとメモ、そして英語の辞書を取り出し、辞書を見ながらメモに何かを書き始めた。
       そして宿泊バウチャーらしきものと共に、そのメモをM氏に差し出した。


             I  GO  HOTEL.  HOW ?


       宿泊バウチャーには「Hilton Hotel in A city」と書いてある。どうやら男はA空港から
       ヒルトンまでの行き方を知りたかったらしい。ところが英語がまったく話せないらしく、
       辞書を見ながら筆談するという非常手段に出たというワケだ。A空港から市内にある
       ヒルトンまでの交通手段は、リムジン・バスやシャトルバスなど、いろんな方法がある
       のだが、英語がまったく話せないという事情から鑑みて、タクシーに乗って運転手に
       このバウチャーを見せるのが一番イイとM氏は考えた。宿泊バウチャーを良く見ると、
       台湾の旅行会社の名前が書いてある。

       「そうか! 彼は台湾から来たんだ!」 M氏の瞳が一瞬キラリと輝いた。

       M氏は中国語が得意である・・・・・・・・・このことに対して誰も異存はないはずである。
       M氏自身も自分の中国語筆談能力には絶対の自信を持っていた。M氏は男が書いた
       メモの下にこう書いた。

         我思 最良手段 乗車 的士(TAX I )  NZ$60

       以前、香港に行ったときに、タクシーのボディーに「的士」と書いたあったのを思い出し、
       さっそくその単語を使ったのだが、香港は広東語であり台湾は北京語である。万が一
       のことを考えて、M氏は英語で「TAX I」と書き添えるのを忘れなかった。

       幸いにも男はM氏のアドバイスを100%理解できたようで、「さんきゅー!!」を連発
       している。 ここで、クドイようだが敢えてもう一度書くことにする。 


        M氏は中国語に絶対的な自信を持っている!

       しかもフレンドリーである。そんなM氏がこのような状況において、単に交通手段を
       教えただけでコミュニケーションを終えるはずがない。さっそくM氏はお家芸である
       筆談を始めた。


         我 氏名 ○×△□(←M氏の本名) 也

        うんうん・・・・男は大きく頷いている。ツカミはカンペキである。

         我 年齢 四十 也

       これまた男は大きく頷いている。自分でも恐ろしくなるくらいに会話がスムーズに
       進んでいる。

         我 大器晩成

       「ワッハッハッハッハッ!」・・・・ウケている! 男は拍手しながら大笑いしている。

           我 中国語 得意 也

       相手は意外そうな顔をしている。どうやらM氏の中国語能力を疑っているようだ。
       そこでM氏は自分の中国語能力を誇示するため、哲学的な内容に踏み込むこと
       にした。

           我 好 論語

       お〜ぉ!・・・・・相手は尊敬の眼差しでM氏のことを見つめている。M氏はここで、
       一気に勝負に出ることにした。とりあえず自分の知っている限りの故事成語を書い
       てみることにしたのである。

           我 好 故事成語・・・・矛盾

       ???・・・・・・し、しまった! ハズしてしまった。 好きな故事成語がいきなり「矛盾」
       ってのはマズかったようだ。男はM氏の真意が把握できないのか仕切りに首をかし
       げている。あわててM氏は話題を料理の話に変えた。

           我 好 中国料理  食在王将 一日餃子百万個

       ・・・・・・・い、イカン! 傷口を広げてしまったようだ。男は相手はポカンと口を開けた
       まま、メモを見つめている。M氏はここで作戦を変更した。自分のことばかり話すのも
       悪いので、相手の国の話題にシフトしたのである。

           我 思  台湾 形 酷似 薩摩芋

       M氏は以前から台湾ってのは「薩摩イモ」に形が似ていると思っていたのである。
       ところが、相手はM氏の書いた文章の意味が掴めない様子である。 おかしい・・・。
       文法的には完璧なハズである。

          「ひょとして彼には私の高度な北京語は通じないのだろうか??」

       決して自分に問題があるとは思わないところがM氏のスゴイところである。どこまでも
       前向きな思考の持ち主であるM氏は、相手が理解できないのは「薩摩芋」の部分で
       あろうと勝手に判断した。

       薩摩イモ・・・・英語ではスイート・ポテトである。ならば中国語では「甘味芋」と言うの
       ではないだろうか? そう考えたM氏は薩摩芋の部分を甘味芋に変えてみた。すると
       急に相手は大爆笑し始めた。実際にM氏の意図が正確に伝わったのかどうかは不明
       であるが、とにかく相手が大いに喜んでいたこともあり、M氏としても大満足であった。

       その後も多少の誤解はあったものの、全体的には話はかなり弾んだ。タクシーのことを
       台湾では「計車」と言うことも教えてもらった。

       そうこうする内に、飛行機はアッという間にA空港に着陸した。飛行機を降りると、M氏
       は親切にも男をタクシー乗り場まで連れて行き、運転手に男をヒルトンまで連れて行く
       よう頼んだ。すると男はメモ用紙に何か書いたかかと思うと、それをM氏に渡しながら、
       握手を求めてきた。タクシーの窓越しに男とM氏は両手で何度も固い握手をした。

       男を乗せたタクシーがM氏の視界から消え去り、M氏は先ほど機内で男からもらった
       メモ用紙を広げてみた。そこには中国語のメッセージと電話番号らしきものが書いて
       あった。

         当称来到台北時 可不可以給我個電話  
            886 - 2 - 2337 - ××××

       おそらく「台北に来たときには、ぜひ電話をちょーだいネ」という意味であろう。M氏は
       心温まるメッセージに感動しながらも、ふと思ってしまった・・・・。



         電話でどーやって筆談すれはイイんだぁ?


       M氏の中国語修行はまだまだ続く・・・・。



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