World Mystery Tour by Mr. M
                 



事件ファイル11


              究極のレストラン・S国編


     赤道にほど近いアジアの某S国。軟弱な腰を持つM氏は、欧州への出稼ぎの帰り、S国に
     立ち寄っていた。別に特別な用事があって立ち寄ったわけでもなく、ガラス細工のように
     繊細な腰を持つM氏は、連続して12時間以上は飛行機に乗ることができないワケである。

     いつものようにど真ん中にあるHホテルにチェックインしたM氏は、いつものように部屋
     の中でダラダラとしていた。「観光だけはしてはイケナイ」というお祖父ちゃんの遺言を
     忠実にM氏は守っているのだ。

     このHホテル、ロケーション的は抜群にイイのだが、ただ1つ難点として和食レストラン
     がホテル内にはないのである。メイン・レストランで週に1回は「和食バイキング」ってのを
     やってはいるのだが、M氏が好きなのは本格的な懐石料理。バイキング程度の和食で
     手を打つことなどできるはずもなかった……と言うのはあくまでも建前で、実はタダ単に
     1階のレストランに行くのさえ面倒くさいのである。で、結局は、これまたいつものように
     ルーム・サービスでメニューの中で一番チープな「ナシゴレン」と「生ビール」を注文して、
     部屋の中でやる気のない態度で食べることになるワケである。

     しかし、その日は違っていた。ホテルにチェックインする際、偶然にも東京在住の知人が
     ちょうどチェックアウトするところで、しばらくロビーで立ち話をしたあと、知人は「もし時間
     があったら、この店に行ってみて。チミはきっと気に入ると思うよ。(笑)」 と、ある旅行雑誌
     を手渡しながら、謎の言葉を残して去っていった。

     「旅行雑誌」・・・・・・・・M氏はこの手の雑誌を一度も買ったことがない。とりあえず必要が
     ないのである。部屋でダラダラしていたM氏は、何気なく知人が教えてくれた店の記事が
     載っているページを開いてみた。「高級寿司懐石○○・・・料亭Nで修行した主人が開いた
     本格的寿司懐石のお店」 M氏はこの手の文言にはヒジョーに弱い。普通の人であれば
     「本格的と言っても所詮は海外。味なんか知れているよ」と考えるところなのであろうが、
     読解力が限りなくゼロに近いM氏の場合「高級と言ってもしょせん海外。値段的には高々
     しれているだろう」と考えてしまうのだ。

     知人が「チミはきっと気に入ると思うよ」と言いながら、謎の微笑を浮かべたのも非常に
     気になる・・・。好奇心を抑えられなくなったM氏はついに立ち上がった!

     川沿いの某繁華街にその店はあった。表からみたお店は、壁の色が赤かったせいもあり、
     どちらかと言うと中華レストランぽかったが、店の入口には「高級寿司懐石・○○」と書か
     れた大きなノレンが自信タップリに掛けられてあり、M氏の期待はイヤでも膨らんでいく。

     しかし、ノレンをくぐり、スライド・ドアを開けた瞬間、M氏の心と体が完全にフリーズ して
     しまった!

     「いらしゃいませぇ。」 コの字型のカウンターの中にいる板さん全員、インド人だったので
     ある!! 誤解のないように書いておくが、M氏には「人種差別」という発想は全くない。
     全然ない。カケラもない。肌の色や国籍に関わらず、キライな人は大キライだし、 スキな人
     は大スキである。しかし、どう考えてもインド人と懐石ってのはミス・マッチで ある。やっぱり
     インド人には美味しいカレー作りに専念していてほしい。しかし、これは ひょっとしたらM氏
     だけの単なる思い込みかもしれない。気を取り直して席に着いたM氏は、とりあえず大好物
     の「握り盛り合わせ」を注文した。

     しばらくして、まずお味噌汁が運ばれてきた。しかしそれはM氏のお味噌汁に対する概念を
     根本から変えてしまうほどのインパクトがあった。通常、お味噌汁と言うのは、「汁」 と言うく
     らいだから、サラ〜ッとしているワケであり、誰もそのことに異論はないはずで ある。ところが
     ここの味噌汁は違った。かなりドロ〜ッとしているのである。恐る恐る飲んでみて、その原因
     が解った。別に片栗粉を入れてドロッとしているのではなく、味噌をアホほど大量に入れてい
     たのである。濃すぎて飲めたものではない。名古屋人でも飲めないと云えば、いかに濃いか
     が解るであろう。

     そして運ばれてきた寿司の盛り合わせ。「おっ? 意外にマトモじゃん!」と思ったのも つか
     の間であった。ふと寿司の盛られている皿の上を見ると、右隅の方にワサビの塊が、 まるで
     「盛り塩」のように高々と盛られている。「高々と」と書いたが、皆さんが想像している高さとは
     ワケが違う。持っていたセブンスターの箱を隣に並べてみると、ちょうど箱の横幅と同じ高さ
     であった。しかもよく見れば、日本のワサビではなく、西洋ワサビ(ホース・ラディッシュ)・・・。

     インド人はみんな日本語で注文を聞いてはくれるのだが、その日本語がまた実にイイ。

     「お飲み物は何にいたしましょうか」
     「お待たせいたしました」
     「またお越し下さい」

     言葉尻は丁寧なのだが、抑揚と笑顔がぜ〜んぜんなく、まったくの棒読みなのである。
     ハッキリ言ってM氏はウケた。ウケまくった。右手だけではなく、ゴーカイに左手も使って
     寿司を握っているのも、気にならなくなった。

     結局、ミョーにエンジョイしてしまったM氏は、その店に3時間もいた。もちろん酒類だけの
     注文に専念したが。 そして帰り際、花板さんとおぼしきインド人に、3時間ずっと心の中で
     思っていた疑問をぶつけてみた。

     M 氏:  「雑誌を見て来たんだけど、料亭○○で修行してたってホント?」
     花 板:  「違う。あれは前の主人。今はオーナーがインド人に変わった」
     M 氏:  「えっ? オーナーが変わったの? じゃぁ、どーしてインド料理
             のレストランにしなかったの?」
     花 板:  「和食の方が儲かるから」

     確かに知人が予言したとおり、M氏はこの店がヒジョーに気に入ってしまったのであった。



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